研究概要
1. 面不斉遷移金属錯体の不斉合成に関する研究成

シクロペンタジエニル基(Cp環)に非対称に置換基を導入すると、上下二つの面は互いにエナンチオトピックとなる。メタロセンでは金属のh5-配位により面が差別化されており、非対称置換により「面不斉」と呼ばれるキラリティが生じる。面不斉メタロセンは多方面に利用されている重要なキラル・テンプレートであるが、その触媒的不斉合成法はほぼ皆無であった。我々は「オレフィン・メタセシス反応」がメタロセンの分子変換に利用できることを見出し、不斉メタセシス触媒を用いて「面不斉メタロセン類の触媒的不斉合成」に成功している。類似の面不斉は、非対称置換π-アレーン・クロム錯体にも生じる。不斉メタセシス反応は、面不斉π-アレーン・クロム錯体の触媒的不斉合成にも有効である。また不斉反応生成物から誘導化した面不斉ホスフィン類が、極めて優れた不斉配位子として作用することを見出している(大阪府立大学・大学院理学系研究科の神川研究室との共同研究の成果)。

2. パラジウム触媒による軸不斉アレンの不斉合成に関する研究

2つの集積した炭素−炭素二重結合を有するアレン類は、独特の立体化学,反応性から有機合成における重要な合成素子(シントン)である。我々の研究室では、2-Bromo-1,3-dieneとソフトな求核剤との反応により高収率で様々な置換アレン類を合成する反応を開発した。この反応はパラジウム触媒存在下で進行し、不斉ホスフィン配位子を用いることにより、軸不斉アレンを最高98%eeのエナンチオ選択性で得ることに成功している。この新規アレン合成反応を応用して、様々な生理活性や薬理活性を有する天然物アレン化合物の不斉全合成を達成している。
3. ホスホール/ホスホリドと遷移金属との錯体化学に関する研究

ホスホールから発生するアニオン種である「ホスホリド」は、遷移金属カチオンにh5-配位しホスファメタロセンを生じる。ホスファメタロセンのリン原子は非共有電子対を有しており、ホスホリドには二種類の異なる配位子である「シクロペンタジエニド」および「ホスフィン」との類似性がある。この点に着目し、多官能性配位子としてホスホール/ホスホリドを遷移金属錯体へ応用し、新たな結合や反応性に関する研究を行っている。
4. 特異な螺旋不斉化合物の合成/応用に関する研究

従来知られていなかった特異な分子不斉化合物として、共役ジエンのアトロプ異性に基づく螺旋不斉化合物や、蔓巻き状分子不斉化合物の合成研究も行っている。前者については、ルイス塩基性のホスフィンオキシド誘導体を合成し、優れた不斉有機分子触媒として作用することを見出した。